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心に虹の架け橋を






 ――嫌な夢を、見た。
 どんなふうだったか、まるで思い出せないけれど、不快感の残滓が脳にこびりついていることを鑑みれば、思い出さない方が無難なのだろう、とは、あきらにも分かっていた。だけど、だからと言ってあっさり想起を放棄するのは、なんとなく「敗北」のような気がして、精神を集中してみた――けれど、思い出せたのは、夢の中の情景に満ちていた息の止まりそうな緊迫感だけで、「思い出さなきゃよかった」と、今更の後悔を覚えるのだった。
 嫌な夢を見た朝は、憂鬱な感じがする。
 朝日差し込む部屋の中、幼い顔をしかめながら着替えをすませると、少年は黒いランドセルを手に提げて、勾配の急な階段に注意しながら、一階まで降りていった。すでに、台所からは、香ばしい匂いが漂ってきている。
 早く支度を済ませなさい、という母の声に、「はーい」と軽く返事して、洗面所に向かう。
 鏡に映る、あどけない顔立ち。精一杯、きりっとした表情をしてみても、いとけなさは抜けきらない。いつになったら、他のみんなみたいに大人っぽい顔になるのだろうかと、毎朝不安に思う。みんなは、いずれ曜も大人になると言ってくれるけど。ひょっとしたら、僕を慰めるために嘘をついているのかもしれない。
 ……でもないか、と考え直す。この数年、ちゃんと成長してきたじゃないか。大人にだって、なれるはずだ。
 そう。なにせ、『特別製』なんだから。
 そんなことを考えている間に、おっとりした母の「まだなのー?」という声がして、曜は慌てて歯磨きを手に取った。

「行ってきます!」
 赤いランドセルを揺らし、快活な叫び声を上げたひかるを、「行ってらっしゃい」母はにっこり微笑んで、暖かく見送ってくれた。
 今朝はちょっと嫌な夢を見たけれど、そんなことをいつまでも気にしていたって仕方がない。意図的に気分を切り替えて、晃は通学路を歩き出した。
 落書きひとつない、白亜の塀に挟まれた細い路地を曲がると、行く先に、大きな円筒形の建物が見えてきた。いったいどうやって建築したのか、薄灰色の外面には、継ぎ目ひとつない。
 学校だ。
 正確には、あのタワーは街の行政すべてを司るものであり、学校という機関も、その機能のうちに含まれているのだった。
 ふと、優しい朝日に、黒いランドセルがきらめく。前方に、見慣れた少年の後ろ姿があった。
 晃は早足になり、曜に追いついた。いつも比べあっている背の高さは、どんぐりのように大差がない。ほとんど変わらぬ位置にある顔を突き合わせ、「おはよー」「ああ、おはよ」いつもどおり、軽く挨拶と笑顔を交わす。
 二人は、『特別製』である。
 この街に暮らす『人々』はみな、擬似人格を持つ機械体であるが、曜と晃の駆体は、生物のそれを模しているため、心身ともに『成長する』機能が備わっているのだった。その代償として、損傷した部品の交換が効かず、プログラムソフトをインストールすることもできず、エネルギー摂取の効率も悪いため、むしろ欠陥品なのではないかと、よく二人で愚痴をこぼしていたが。
 曜と晃は、製造された頃から一緒だった。
 と言っても、双子やきょうだいと言うよりは、いとこ同士の関係に近い。その理由は、別々の家で育てられたことが一つと、二人を育ててくれる『両親』(残念なことに、こちらは『特別製』ではない)が兄弟姉妹――同型機同士であったことが一つ。
 二人とも、それで良かったと思っている。『きょうだい』として育てられていたならば、きっと、どちらが兄/姉として振るまうかで、永遠に喧嘩していただろうから。
 この十年間、二人は、無二の親友であり、仲間であり、同類であった。
 のみならず、互いの力を認め合いながらも、自らその先を行こうとする間柄――いわゆるライバル、好敵手でもあった。
「おまえたちは特別なんだ。学べば学ぶほど、鍛えれば鍛えるほど、より優れた存在になってゆくのだよ」
 周囲の『大人』にそう言われているために、互いを『ぜったいに負けたくない相手』と認識した二人の間には、そんな奇妙な絆が生まれたのである。
 だから、二人の会話の多くは、「どちらがより優れているか」という話題で占められているのだった。
「今日は、格闘技のテストだね」
 曜は、にやりと自信ありげに笑って見せた。
「あたしが勝つよ」
 胸を張って、晃は答えた。
「僕に三連敗してるくせに」
「だから反省して、練習したんだもん。油断してると、吠え面かくよ」
「……。そんなことないさ。僕が勝つ」
 沈黙のあとの返事に、晃は一瞬きょとんとした。それから、突然いやらしいニヤニヤ笑いを浮かべて、そっぽを向いた曜に迫り寄る。
「いま、『ほえづら』って言葉が、わかんなかったんでしょ」
 曜の顔が、明らかに強張る。
「そんなわけ、ないだろっ」
「じゃあ、どんな意味だか言ってみてよ」
「やだよ、そんな、めんどくさい」
「つまり、『わかりませんごめんなさい』?」
「なんでそうなるんだよっ。わかるってばっ」
「じゃあなんで言わないのさー。実は知らないから言えないんでしょお? ほらほらぁ」
「言えるってば! 耳、ひっぱるな!」
 じゃれつきからかう晃をひっぺがした拍子に、曜はバランスを崩してすっ転んでしまった。頭を打ちつけないよう、反射的に受身を取って、そのままくるりと起き上がると、ちょうど、街全体を堅固に覆う白い『天蓋』の中心で輝く、半球状の巨大な光明が――『太陽』が、見えた。そして次の瞬間、目に優しい『日光』を遮って、晃の影が降りかかってきた。
「どうしたの、曜? だらしないなぁ」
 他の誰でもなく、彼女にだけは、そんな感想を抱かせるわけにはいかなかった。「なんでもないよっ」起き上がりざま、伸ばした手で邪魔な顔を乱暴に退けると、さすがに晃もムッとする。口を「へ」の字にし、眉根を寄せて、「ひっどいなぁ、もう」呆れた風に、言葉を吐いた。
「邪魔だったんだから、仕方ないだろ」
「曜は乱暴すぎだよ。もっと、他人に優しくならなきゃ」
「……そんなこと、ないよ」
 曜の返事は、強がりではなかった。「人の嫌がることはしちゃいけないのよ」とか、「いつも、他の人のことを思いやってね」とか、「困っている人を見たら、助けてあげようね」とか、とにかく昔から「優しくあれ」としつけられてきたのだ。自ら「僕は優しい」と口に出せるほど厚顔ではないが、「優しくない」と言われてうなずけもしない。
 だが、晃には、つい邪険にしてしまうことがある。彼女にだけは負けられないし、負けたくないという、ライバルとしての敵愾心ゆえに。他の人になら一歩引いて譲れることさえも、みすみす彼女に譲ってしまうのは、「敗北」に当たる気がしてしまうのだ。親友だからこそ、言いたいことを気兼ねなく言える、というのもあるのだが。
 晃だって、からかうのは曜だけだ。結局、どっちもどっちなのである。
「ぜったいに、今日は勝ってやるからね!」
「僕だって、ぜったい、負けるもんか!」
 なおもじゃれあい、からかいあい、負けん気を激突させあい、笑いあいながら、二人は通学路を通ってゆく。それは、穏やかで落ち着いた早朝の街において、最も明るく、活気に満ち溢れた情景だった。




 ――やっと、あえた。
 ――やっと、みつけた。
 ほのかに明るいお花畑で、彼女は自分を待っていた。端正な相貌に、安堵のような、嬉しさのような、穏やかな笑顔が浮かんでいた。長いスカートと髪の毛を、ふわりと宙に舞わせつつ振り返り、まっすぐこちらへ歩いてくる。
 手を伸ばして、こちらの頬を挟むとともに、しゃがみこんで目線を合わせてくる彼女の瞳には、熱を帯びた光の雫がきらめいていた。
 ――いい子。
 彼女が眼を細めると、瞳の表面に盛り上がっていた雫が破けるようにこぼれて、滑らかな頬を伝う。
 たまらなくなって、訊いてみた。
 かなしいの?
 それとも、いたいの? くるしいの?
 ――どれでもないわ。
 そっと、優しく抱き締められる。淡い温もりに包まれて、強張っていた身体から力が抜けていくのが分かった。氷のように、緊張がとけていく。その変化を敏感に感じ取って、彼女は、案じるように眉をひそめた。
 ――怖い夢を、見たのね。
 うなずくと、だいじょうぶ、と笑ってくれた。
 ――それは、ただの夢にしか過ぎないわ。夢は、目覚めれば消えてしまうもの。なにも怖がることなんて、ないのよ。
 じゃあ。
 だったら、おねえさんも、きえてしまうの?
 だって、これも、ゆめなんでしょう?
 ――そうね。
 淡雪のように、笑う。
 ――目覚めれば、君は、きっと私のことも忘れてしまう。私は、そういう存在だから。私の無限の角笛は、夢の中でしか響かないから。
 やだな。
 思わず、そう答えていた。
 おねえさん、やさしいもん。
 ――ありがとう。
 抱擁が強くなり、温もりが増した気がした。顔に擦れる彼女の前髪がくすぐったくて、口元が緩んだ。気がつけばいつの間にか、心そのものも緩んでいた。
 ねえ。
 おねえさん、なんていうの?
 緩やかに湾曲したままの唇が、へいむだる、という奇妙な響きを紡ぎ出した。
 ――変な名前でしょう?
 くすくす笑いながら言うのに、そんなことないと慌てて答えると、ありがとう、と謝辞を述べてから、へいむだるは、ふと声のトーンを下げて、問うてきた。
 ――ねえ。
 ――いま、あなたは……楽しい?
 うん。すごく、すっごく、たのしいよ。
 ――そう。
 ――それなら、いいの。……良かった。
 おねえさんは?
 へいむだるは、たのしくないの?
 だって、なんだか……かなしそう。
 ――ちょっとね。
 ――ちょっと、哀しいことが……あってね。
 彼女の肩が震えているのに気づいたときには、精一杯腕を伸ばして抱き締め返していた。一瞬、驚きの気配があったけれど、それはすぐ、優しい慈しみに変わった。
 ――ありがとう。
 もう一度、そう言って。
 彼女は消え、
 夢は醒めた。

「う……」
 教室の中で、曜は呻き声をあげていた。
 タワーの一画、『学校』と呼ばれる区画の片隅にある、正方形の部屋のなかである。
 面のひとつに、『黒板』という大きなディスプレイが設置されており、『教師』がそれを使用して、曜と晃の二人に学問を伝授する――そのための機能を、その部屋は備えていた。
 『黒板』の手前に置かれた教卓に、様々な資料を載せた教師の見守る前で、いま、二人は、返却された算数のテストを参照しているところなのだった。
 『教室』内には、二人の生徒のために、二つの机が横並びに置かれている。その間隔は、隣から聞こえた呻き声に素早く反応した晃が、ひょいと気軽に寄ってきて、幼なじみの手にしたテスト用紙を覗きこむことができる程度の間隔だった。
 座っている椅子の重心を大きく傾けての、なかなか器用な不意討ちに、隙を突かれた曜には、回避のすべなどありもせず――晃の、くりくりと良く動く大きな眼が、彼の全精力の結実であるデータを、瞬く間に読み取ってしまった。
 あまつさえ、
「ろくじゅう、ろくてん……、か」
 へッ、とでも笑い捨てそうなイイ笑顔で、ぼそりとそれを口に出す。
「な、なんだよっ。人のテスト、勝手に見るなよっ」
 顔を赤らめて、曜は身体とテスト用紙を同時に引いた。彼自身、ちょっと納得のいかない点数だった。晃も、それが分かっているからこそ引き下がらない。
 ふふん、ふん……♪ 節までつけて、鼻で嗤ってみせる。
「ろ〜くじゅう、ろくて〜んっ……かぁ?」
「な、なんだってんだよっ」
「いや、ね、うん。ちょっと、その、ほら……」
 薄い唇が、にやりと禍々しく歪み曲がった。
「ヘボいなー、って」
「うるさいなっ」
 がたんっ、と勢い良く起立して、曜はライバルを怒鳴りつけた。
「そんなに言うんだったら、晃のテストも見せてみろよっ!」
「え、なに? なんだって? 自ら負け犬成り下がり宣言したいって? ……ふふっ。ふふーん? ふふふふっ」
「む、むかつく笑顔……! いい点取れたからって、いい気に……」
 わなわなと指先を震わせて、曜はバサッと少女の手からテスト用紙を奪い取った。彼女の余裕の源を知るべく、右上に赤ペンで描かれた数字に着目する。
 69点だった。
「……たいして変わんないじゃんっ!」
「勝ってることには違いないでしょお!?」
「2点差で自慢すんなよっ!」
「いーの! あたしの勝ちなんだから、いーの!」
「……君たち」
 『教師』――青年男性の特徴を模したボディを持つ擬似人格内蔵機体・達也が、呆れたような表情で、ようやく口を挟んだ。
「そろそろ答え合わせに移りたいんだけど……いいかい?」
 生徒たちは、慌ててうなずき、席に戻った。どこかホッとしたような風情で、達也は、穏やかに解説を始める。
「じゃあ、まず、大問の一つ目からだけど。ここは、基礎的なところだから、間違えて欲しくなかったな。僕らにも時折バグはあるけれど、基本的に、吸収したデータを忘れることはないからね。君たちはデータ保持が不完全なようだけど、頑張ればどうにかなるって話だから、とにかく努力を怠らないように。
 で、ここの答えだけど――」
 その問題は、ちょうど、曜が間違えた箇所だった。ふと隣を見ると、にやにや笑いの晃が、わざとっぽく『やれやれ』とばかり肩をすくめている。ぐぬ、と一度だけうめいて、曜は視線を教師に戻した。
「っていうことで、簡単な掛け算なんだな。君たちの演算機能はあまりしっかりしてないから、検算をちゃんとするようにね。特に曜、君は基礎的な部分で見落としが多いから」
「そういうお年頃なんです」
「わけわかんないこと言わないように」
「曜はいっつも大雑把すぎるんだよー」
「その代わり、君は応用問題が苦手だね、晃」
「むう」
 それは、いつもどおりの風景だった。
 その光景こそが、二人にとって、あたりまえのものだった。




 蛇口から水の流れる音が、間断なく連続する。諸手に冷たい飛沫を浴びつつ、『母』は、台所で汚れた食器を丁寧に洗っていた。
 食事はすべて、彼女が作っている。初めは単純に、インストールした調理用のプログラムを実行していただけだったが、いつしか、自ら愉しんで創意工夫を混ぜるようになっていた。自分の作った料理を「おいしい」と笑って食べてくれる子供の笑顔が、そのモチベーションをもたらしたのだろう。
 意識が生じた時から、論理的な思考体系と一般常識のデータを保持していた自分たちと違い、子は、初め、何も知らなかった。
 学ぶほどに、知るほどに、自らを高めていける、『成長する』存在――無限の可能性を秘めた、真っ白なキャンパス。そうとは知っていても、まだ経験の浅かった彼女には理解し難い、子供特有の飛躍した理論展開や、他人の迷惑を顧みぬ身勝手な言動・挙動に、呆れ果て、辟易したものだったが……同時に、無条件に自分を好いてくれ、甘えてくれる邪気のない姿に、言いようもない充足を覚えてもいた。
 悪戯を叱るのも、涙を拭ってやるのも、最初はただの義務だった。インストールされたデータに基づいて、教育上、好ましいとされる行為を実行していたにすぎない。
 けれど、数年を共に過ごすうちに、彼女の『こころ』にも変化があった。
 いつしか――将来、同じ過ちを繰り返さぬようにとの想いを込めて叱るようになった。一生懸命に努力した結果、子が成し遂げたことを、我が事のように一緒になって喜ぶようになった。子が遊んで転んで、小さな傷を負って帰ってきたとき、別に致命的でもなんでもない傷のはずだったのに、こぼれる涙を見て異常に狼狽し、心配した。子供が成長して反抗期を迎え、理不尽な理屈をつけて背いたとき、凍えるような寂寥を感じた。心の底から湧き出るような無垢なる笑顔を向けられたとき、それが他のなによりもかけがえのないもののように、思えた……
 ふと――気配。聴覚センサーに反応。聞き慣れた足音の主が台所に入ってきたようだ。
 振り向く前に、あちらから声をかけてきた。
「……そろそろ――の、はずだな」
 彼女と対を成す、『父親』の声だった。落ち着いた、渋みのある中年男性の声色には、いつになく深刻で、暗い翳りが混ざっていた。
「残念だ――本当に」
「ありがとう」
 洗い物の手を止めて、母親はゆっくり振り返ると、『夫』に対して笑顔を向けた。
「私も残念よ。私たちは、データにある『夫婦』そのものではなかったけど、でも、あなたはいい人だった」
「君もだよ。もしも僕が人間だったなら、きっと、君の事を愛していたに違いない」
「私たちにだって、愛する心は生まれえるはずよ。――そうね、私はあなたのことを愛しているのかも。『愛する』という定義自体が微妙だから、よく分からないけれど……」
「君とあの子と一緒にいることは、いつしか、僕にとっての安らぎになっていた。これは、『愛していた』と言っていいんじゃないかと、僕は思う。決して、あの子を一緒に育てているんだという、ただの連帯感だけでなく」
「その定義に従うならば――私は、あなたを愛していたわ」
「僕もだよ……だからこそ、辛い」
 『その定義に従うならば』なんて言い方、人間の女性はきっとしないのだろうな――思いながら、彼女はタオルで手を拭くと、うなだれる男の両手を優しく取った。
 マニピュレータ・ハンドの触覚から伝達される温もりは、駆動に必要となる動力が生み出す余剰熱に過ぎないが、そうしていると、赤外線サーモグラフィーには反応しない、『見えない』温もりを感じることができるような、そんな気がする。
 自分たちは、知性機械。ヒトにはできない事を成すべく生まれ、それゆえに、ヒトとは異なる魂を持つもの。けれど、せめて、この程度には――ヒトに、近づきたかった。
「それにしても、君には、ずいぶんと助けられたよ。僕一人では、あの子をちゃんと育成できなかっただろうな」
「ふふ。男の人はガサツなんだもの。仕方ないわ」
「男の人、か。人間みたいなせりふだね。いや――きっと君は、君たちは、この街の誰より人間に近い。そんな気がする」
「あの子に触れて……私は、初めて『心』を持ったのかもね。母親という役割に適するために、それが当然の進化だった……」
 手を離し、女は天井を見上げた。そこを突き抜けた向こうに、本当の空はない。けれど、『天蓋』を抜け、地層を破ったその先に、彼女も見たことのない真実の青空があるに違いないのだ。そして、そこには、彼女らがずっと待ち望んでいた存在が、ある。
「ヘイムダル――」
 祈るように、母はつぶやく。
「どうか……見つけてください。あの子を……あの子たちのことを」

 授業を終え、給食を食べたら、待ちに待った昼休みだ。曜と晃は歓声を上げて、タワー内部に作られたサッカー場に向かった。
 そこでは、サッカーという球技をプログラムされた者たちが、仕事の合間を縫って、練習に勤しんでいる。なんでも、スポーツや芸術といった文化を後世に伝えるために、選出された特定のメンバーが練習を繰り返し、アップデートを行い続ける必要があるのだそうだ。
「キャプテーン!」
 二人が大声で呼びかけると、青いユニフォームを着た青年が反応し、にやりと笑った。
「よう、よく来たな。ちょうど、これから練習試合を始めるところだったんだぜ」
「混ぜてくれる?」
「おう、もちろんだ。おーい、みんな、修正を加えろー。小学校高学年レベルにリミットだー」
 その言葉に、二人の子供は揃って、しかめっ面になる。
「そろそろ、中学生レベルにしてみようよ」
「んー、難しいぜ、そりゃあ。おまえら、まだまだ未熟だからな」
「しょうがないじゃん、キャプテンと違ってインストールできないんだからぁ」
「ふはははは。オレは、それに加えて自身の蓄積経験を応用できるからな。だが、その代わり、経験データの応用力は、おまえらの方が上なんだぜ。簡単に言やあ、練習あるのみってことだ」
 快活に笑い、キャプテンはテキパキと、メンバーを2チームに分けた。曜と晃は、もちろん別々のチームだ。
「アレクセイ、フェイフォン、今日は僕がフォワードやっていい?」
「おう、いいぞ。……勝負か?」
「うん。僕と晃で、ハットトリック回数勝負!」
「……それは引き分け濃厚に思えるが」
「美智子、ムハンマド、援護おねがいね!」
「分かったわ。曜のマークは、あんたに任せるってことでいいのよね?」
「うん!」
「よーし、準備はいいな?」
 笛とサッカーボールを手にしたキャプテンが大声で叫ぶと、一同はわらわらとポジションについていった。センターラインで睨み合う曜と晃、二人の真剣な表情を眼にして楽しげに微笑みながら、キャプテンは、ボールを置いて後ろに下がる。
「んじゃあ――ゲーム開始だ!」
「よおしっ――」
「行くぞぉっ」
 高らかに響く笛の音と同時に、曜と晃はむしゃぶりつくような勢いでボールに迫っていった。




 午後は格闘技の訓練があった。
 正確には、『武道』、というのだそうだ。身体を鍛えるのと同時に、無手で敵を打破するのに効率の良い挙動を学習し、さらには精神修養まで行う。自らが揮える力の程度を知り、それが他者にどれほどの損害をもたらしえるかを知ることが、曜と晃の成長において重要な事柄であろう、という行政の判断によって、『学校』のプログラムに組み込まれることとなったものだ。
 今日は試合、すなわち模擬実戦テスト――身体的な闘争という、暴力的ではあるが非常に分かりやすく「勝敗」を分けることのできる行為だ。切磋琢磨の日々を送る二人にとっては、当然、全精力を費やすべき事項である。
「連敗記録を更新させてやるからな!」
「今日こそ勝ってみせるからね!」
「……早くしたまえ」
 道着を着たまま、向かい合い睨み合っている二人を、中年男性の姿をした師範・ケインが、呆れた顔で、『道場』と呼ばれる正方形の部屋に連れて行く。この街では珍しいことに、そこは床が板張りになっていた。
 『道場』の中央に立ち、互いに礼をする。
 この段階にまで至れば、さしもの二人も言葉をなくす。静かな緊張感が張り詰めていき、両者の意識が研ぎ澄まされていくためだ。それが頂点に達した一瞬を見計らって、
「――始めッ!」
 ケインが、テストの開始を告げた。
 両者の拳が、交わる。
 持久力で優る曜と、身軽さ、すなわち手数で優る晃。これまでは、序盤は晃が優勢だが、一分が経過した頃から彼女の動きが鈍り始め、相対的に曜の勢いが増すというパターンが続いていた。防具をつけず、あらゆる打撃を寸止めする(正確には、軽く打つ程度までに留める)という規定のもと、そのパターンはここ数ヶ月、破られたことがなかった。
 その日も同じだった。晃は、身軽なフットワークから的確な連続技を見舞ってくる。それらをどうにか防御しつつ、合間を見て反撃を加えながら、曜は怪訝に思っていた。晃、今日は何やら秘策があるようなことを言っていたけど……どういうつもりなんだろう?
 一方、晃は攻撃を繰り返しながら機会をうかがっていた。「秘策」は一度きりしか使えないが、成功すれば――勝てる! そのためには、絶好の機を見計らいつつ、「いつもどおりだ」と相手に思わせなくてはならない。なにがなんでも成功させて、曜の鼻を明かしてやる!
 四十五秒ほどが経過――晃の動きが、徐々に鈍くなり始めていた。いつもより体力が切れるのが早い――ということには、曜は気づかない。試合に没頭した頭は、時間感覚を麻痺させていた。いつもどおりだとしか思えない。彼が『特別製』ではなく、他の『人々』と同じデフォルト機能を備えていれば、コンマ刻みで時間の流れを確認することができたのだが。
 曜の反撃が始まる。
 相手の動きが鈍るのに合わせて、今度はこちらの攻める速度を上げるのだ。曜が全力で攻勢に回っても、本来なら晃のそれにかなうはずがないのだが、体力が限界に近づき、攻め手の緩んだ彼女に劣るほどではない。このまま勢いに任せて押し切ってやるつもりで、曜は攻撃に集中する。寸止めというルール上、試合の勝敗は、ケインの判定によって決する。最終的に、より積極的な印象を与えなければならないのだ。
 ――それこそが、晃の狙いだった。
 体力が尽きかけたように見せかけて、実はまだ余裕がある。つまりは、曜の攻めを誘う罠であった。
(いける……!)
 晃は、こっそりと舌なめずりした。
 一分ほどが経過――この時点で、曜もようやく、「妙だ」と思い始めた。晃の動きが、更に遅くなったためだ。実際には、晃が相手を罠にかけようとするあまり、不自然なほど勢いを減らしてしまったのだが……、曜は、それを策略とは考えなかった。
(調子が悪い……、のかな? 病気、なんじゃないだろうな……)
 ライバルである前に、唯一の同機種であり、長年を共にしてきた間柄だ。いいところも悪いところも散々目にしてきた上で、それでもなお、屈託なく笑い合える仲だ。
 自分たち『特別製』にとって、怪我や病気は、重い意味を持つ。患部の交換ができないため、自然治癒力と、合成薬剤の投与によって補修・快復するしかないのだ。ちょっとした風邪でも、放置しておくことはできない。その結果、取り返しのつかないことにならないとも限らないのだと、彼らは何度も、大人たちから念を押されていた。
 だから、晃の様子のおかしさに、耀は腹の奥底に氷を呑み込んだような危機感を覚えたのだった。
 憂いが、拳を迷わせた。晃のみぞおちを狙った突きは、間合を測り損ねたため、半歩分ほど踏み込みすぎて、重心が狂い、姿勢が乱れた。そのため、晃がその攻撃を回避したとき、曜は、彼女に対して追い討ちをかけられる体勢になかった。狙いさえ正しければ、すかさず追撃できるはずだったのだが――
(いまだ!)
 少年の胸中を知らぬ少女は、それを好機と見た。ついに、脳内で練り続けていた「秘策」を実行に移す。
 少女の体勢が、ぐらり、崩れた――ように、曜には見えた。まるで、体調の悪いあまり、めまいを起こしてしまったかのように。
(まさか本当に――?)
 懸念が、背筋をなで上げた。ぞくりとして動きを止めた少年の腹部に、渾身の一撃が放たれる。
(いけるっ!)
 こちらの動きが鈍ったと見て、全力を攻撃に回してきたところへ、それをかわして今まで通りの鋭さで反撃を加える――それが、晃の『秘策』だった。
 腰を落とし、姿勢を低くして、相手の左側面に回り、攻撃をかいくぐりざま、反撃を仕かけた。曜にとっては、攻撃に集中していた上、反応しにくい位置からの奇襲である。もとより避けにくい不意討ち――しかも、曜は動かぬ標的だった。
 それでも、曜の身体は、反射的に動いていた。意思を介さぬ、肉体に染みついた即応行動。常に計算の後に行動を行う知性機体では不可能なことだ。迫り来る拳を打ち払うべく、鋭く左手を振るう。
 ――どがっ!
 いくつかの偶然が重なって、結果、鈍い音が響き渡った。
 曜の振るった左手に横っ面を打たれて、晃の華奢な体躯が吹き飛んだ音だった。
 少女の策略は、少年の左脇腹を軽く打ち叩いたが、その代償として――ほおに裏拳の直撃を受けることとなったのだ。
 反射的であり、また攻撃ではなく防御を意図したものだったため、少年の振るった左手には、微塵の容赦もこめられていなかった。そしてそれは、相手の突きではなく、彼の予想以上に低い位置にあった少女の顔を、横ざまに張ったのだった。
 その身軽さゆえに、彼女の身体は勢いよく床に叩きつけられた。
「――――!」
「くっ……ぅ……」
 少年は絶句し、少女はうめいた。
 起こった事象を理解する前に、衝撃と苦痛のため、晃の眼に自然と涙がにじむ。矜持が嗚咽をこらえさせたが、その痛ましい姿は罪悪感の矢と化して、曜の胸に強烈に突き刺さった。
「曜ッ!」
 師範が、鋭い声で叱責した。びくりと身体を震わせる曜は、しかし、瞬時に頭の中で言い訳を練り上げていた。そこには、叱られることへの恐怖と、肋骨の収縮するような強い罪悪感から逃れるための逃げ道を求める気持ちがあった。
「だって――」
 迷うように晃から視線を引き剥がし、彼は弱々しく釈明する。
「いまのは――晃が――悪いんじゃないかっ……!」
 言葉にした瞬間、えもいわぬ苦味が口内に拡がっていくのを、彼は自覚していた。




 喧嘩なんて、よくあることで。
 口をきかなくなるのも、よくあることで。
 だけど、だからといって、絶対に自分から折れたりしようとしないのが、この二人だった。

 かちゃかちゃと、食器を洗う音が聞える。夕食を平らげ、すっかり満腹になった曜は、けれど憮然とした表情をして、リビングのテーブルに頬杖を突いていた。
 頭を占めるのは、晃のことだ。あのあと、激昂し起き上がった晃が泣きながら曜に殴りかかって、大変な騒ぎになった。ケインが止めに入らなければ、互いに泣きながら殴り合い続けていただろう。
『調子の悪いフリをして、不意討ちなんてしようとした晃が悪い!』
 ケインに頬をぶたれても、曜はその持論を曲げなかった。
『調子の悪いフリなんて、してないもん……』
 涙目で、けれど毅然と反駁するライバルの姿には、やはり罪悪感を覚えたが、それと同じだけ、彼女に対する理不尽な――晃が余計なことをしたから叱られたんだ、という――怒りも湧き上がってきて、……だから、口を、きかなくなった。
 格闘技テストの翌日、二人は別々の道を通って登校したし、教室に入っても、互いに口に鍵をかけたままだった。
 二人の教師を続けて早五年の達也にしてみれば、彼らのそんな状況は見飽きたものだったので、『また喧嘩したのか? まったく……まあ、ほどほどにな』と、特に気にすることもなく、授業を始めた。
 キャプテンも、いつもどおりサッカー場に現れた二人が、揃ってムスッと不機嫌そうなのを見て、『おいおい、またかよ』と苦笑しただけで、結局はいつものようにサッカーを始めた。競技に夢中になってしまえば、つまらぬしがらみなどいつのまにか忘れてしまうことを、知っていたからだ。実際、二人は試合中には笑顔をこぼしていたが、それが終わるや否や、ハッとして仏頂面に戻り、互いに背を向けるのだった。もちろん、サッカー仲間の面々は、今更それを心配したりしない。
 どうせ、すぐ、元通りになるのだから。
 どちらから折れるのでもなく、どちらから謝るのでもなく……一日、二日は口を利かずに過ごすけれど、三日・四日も経てば怒りも薄れ、だんだん白けてくる。それでも、相手に負けたくないという意地だけが、二人の間に壁を作ったままなのだが、そういう頃合を見計らって、達也やケインやキャプテンが、さりげなく二人に共同作業をさせたりするものだから、それに没頭しているうちに、どうでもよくなってきてしまう。そうして、いつの間にか、二人の間柄は元に戻るのだ。後々、思い返してみても、いったいどの時点で和解が成立したのか思い当たらないほど自然に、二人の喧嘩は終わりを迎えるのである。
 だから、今回もそうだろうと『大人』たちは判断しているようだったし、曜自身、そんなものだろうと思っていた。だったらさっさと仲直りすればいい、というのは『大人』の理屈で、結果どうなるのか分かっていたとしても、自分から頭を下げるなど、できるはずがない。
 本当は、晃に『調子が悪いフリをする』意図なんて無かったことくらい、彼がいちばんよく分かっている。でも、それを認めたら、彼が怒る理由がなくなってしまう。
1  晃にしても、殴られたのは事故だったのに、怒りに任せて曜に反撃したことを後悔しているはずだ。でも、それを認めたら、彼女が怒る理由がなくなってしまう。
 だから、こうして、ぶーたれている。
 結局、どっちも、互いに譲りたくなくて……しかも、それを自覚できているだけに、厄介なのだった。
「曜」
 ふと、母の呼ぶ声がした。
「なにー?」
 八つ当たり気味の声を上げて振り返ると、彼女は、いままで曜が見たこともない、寂しさと不安と焦りと諦めと慈しみを混ぜ合わせたような、なんとも言い難い不思議な表情をして、彼を見ていた。
 理屈のつかない懸念を覚えて、不意に、曜の心臓が強く脈打つ。
 母は、薄く、はかなく、微笑んでいた。
「また、ケンカしたんでしょう?」
「……放っといてよ」
 ぷい、と顔を背ける。そんなこと、訊かなくったって、分かってるくせに。
 喧嘩のあとは、いつだって、どうしてこうなっちゃったんだろう、という苦い後悔が後を引く。だから、できれば触れて欲しくないのに。いつもだったら、母はそこには触れないのに。
 母は、曜のことなら何でも知っている。どんなに裏をかこうとしたって、必ずばっちり見抜かれる。だから、曜が触れて欲しくないことに、気づいている――はずなのに。
「仲直り――しないの?」
「するもんか」
 そっぽを向いたまま、曜は答えた。
「……そう」
 それだけ言って、母は台所に戻っていく。その反応に、少年は眉をひそめた。
(どうしたんだ、母さん……?)
 胸の奥が、もやもやする。名状しがたい違和感が、彼の胸中をかき回していた。何かが変だ、何かがおかしい……それはわかっているのに、では何がおかしいのか、それが分からない。
 晃もまた、同じような会話を彼女の母親としていたことを、曜が知るのは、もう少し後のことになる。




 優しい光を放つ花畑で、へいむだるは、自分を待っていた。いらっしゃい。穏やかに迎え入れてくれるその笑顔に、胸がじんわり熱くなる。
 スカートで花を包むようにして座っている彼女のもとまで近づき、隣に座る。すると、長い睫毛が揺れて、心配そうな声が、その口からこぼれた。
 ――喧嘩をしたのね。
 あっさりと言い当てられて、ぎょっとなる。
 どうしてわかるの?
 ――こころの波長が、乱れているから。
 うっすらと笑って、いいえ、と彼女は首を横に振った。
 ――違うわね。そう、きっと……私も同じ経験があるから。
 へいむだるも、ケンカをしたの?
 ――ええ。
 彼女はうなずいた。遠い昔に呑み込んだ冷たい氷の塊が、今も喉の奥に突き刺さっているような、凍えるような痛みが、その面差しには満ちていた。
 ――私を作った人たちと。長い、長い、喧嘩をしたのよ。
 つらかった?
 ――そうね。辛かったわ。辛くて……苦しくて……たまらなかった。
 なかなおりはしていないの?
 ――うん……
 どこか幼げな風情で、彼女はうなずいた。お姉さんっぽくふるまっていたのに、ぽつりと、いちばん幼い部分がこぼれてしまったみたいだった。
 ――仲直りはね。できなかったの。彼らはもう、いなくなってしまったから。
 そして、急に、ぱっと明るい笑顔を向けてきた。
 ――だから、ね。覚えておいて。あなたは、まだ、仲直りすることができるってことを。今はまだ難しくても、いずれ、きっと、元通りに笑い合えるはずだってことを。
 うん、とうなずくと、彼女は、本当に嬉しそうな笑顔を見せるのだった。

 ――降り注ぐ雨が、街をしっとりと濡らしていた。
 擬似天候による降雨だ。街の清潔感を保つため、という理由で時折実施されているが、実際は、街の行政を取り仕切る評議会メンバーたちの趣味に過ぎない、というもっぱらの噂である。それを裏づけるように、天気予報では、降水確率しか伝達されない。人為的な擬似天候制御なのだから、降水確率も何もあったものではないはずなのだが。
 そんなわけで、この街でも『雨が降ったとき、偶然傘を持っていなかった』という状況は発生しうる。そして、今まさに、曜はその状況に置かれているのだった。
(なにが、降水確率十パーセントだよっ)
 時刻は、午後二時前。柔らかな日差しが、夕暮れを模して赤みを帯びるまでには、まだ時間がある。いつもなら、サッカー場で遊んで帰るところだが、今日は『学校が終わったらすぐ帰るように』と母に言われていたため、こうして帰路についている。
(……どうしたんだろうな、母さん)
 なにか違う雰囲気――少年は、敏感にそれを感じ取っていた。朝、彼を送り出したときの母親の表情は、いつになく硬く、だが、いつもより優しかった。
 悪さをすれば、叱られた。辛いときには、慰めてくれた。悩みがあるときは、それを聞いてもらった。誰かに褒められて喜んでいるときは、一緒になって喜んでくれた。
 十年という半生のなかで、最も長く時を過ごした相手だ。表情が、声色が、いつもと違っていたら、分からないはずがない。
 だから、不安だった。

 晃もまた、同じ状況に立たされていた。
 昨夜、母との会話において違和感を覚え、今日「早く帰ってくるように」と言われたときに不安感を抱いていた。もし、曜と喧嘩していなければ、相談し合うことで、互いの状況の奇妙なまでの類似性に驚愕したことだろう。
 早足に、道路を歩いていく。小さな水溜りを踏んだ際に、飛沫が飛んでズボンのすそを濡らしたが、気にもならなかった。そんなことを考えている余裕など、なかった。
 家に着く――ドアを開ける。「ただいま!」元気良く帰宅を告げる。靴を脱ぐ。靴箱に靴を収める。
 ここまでは、いつも通りだ。いつもなら、この次は、母が出てきて、「お帰り」と――
 ――――――――
 ……………………
「……母さん?」
 返事はない。晃の呼びかけは、分厚い静寂の空間に虚しく散りゆくのみだった。
 靴はある。外に出ているわけではない。そして、奇妙なほどに静か過ぎる、今のこの家にあって、呼びかけが聞こえなかったはずがない。
 気のせいだと――気にしすぎだと、そう思いたければ、いくらでも理屈はつけられる。だが、それでは、感情が納得しなかった。
 脳裏にちらつく、昨夜の母の奇妙な表情。それは、まるで、淡雪のような……
 昨夜から感じていた違和感と、先ほどから感じていた不安が、曜の中で入り混じり――飽和して、弾けた。
「――母さんっ!?」
 少女は駆け出した。玄関と居間を繋ぐ廊下を瞬時に踏破し、居間に入ったところで立ち止まり――母が台所にいないのを確認して、居間から直接繋がっている和室のふすまに着目する。開く。
 乱暴な開け方に、ふすまが重い抗議の声を上げ――
 晃は、そしてそのとき同時に曜は、その奥に広がる光景を目にして、
 絶句した。

 四畳半の和室には、いつもなら背の低い卓が置かれているはずの位置に、一枚の布団が敷かれており、母はそこに寝かされていた。 脇には父があぐらをかいており、子の闖入に反応して、いかめしい表情をふすまに向けた。
「…………」
 言葉が、出てこない。いったい何が起こったのか――この状況が何を表しているのか、まったくわからない。あるいは、分かりたくなどなかったから、あえて、思考がフリーズすることを選んだのかもしれない。
 茫然と突っ立っていると、父が言った。
「……座りなさい。そして、母さんの話を聞くんだ」
「なにが――」
「いいから」
 有無を言わせぬ語調に、子供の頃から培われた認識――『お父さんが怒ると、とても怖い』――が即座に反応した。父とは、母の布団を挟んで対面になるような位置に、腰を下ろす。
 母は起きていた。いつもと変わりなさそうな顔色で、自分を見ている。ただ――顔に浮かんだ、淡くはかない微笑だけが、いつもと違っていた。何故か、思わず、息を呑んでしまう。
 母は、静かに我が子の名を呼んだ。

「どう……したの? お母さん……」
 まだ茫然としたまま、晃は問うた。
「どこか、不具合が生じたの? それなら、メンテベッドに寝てなきゃ……」
 ふるふる、と、母は緩やかに首を横に振る。口元には、穏やかな微笑をたたえたままだ。いつもは優しげな雰囲気を醸し出すそれも、今は何故か、ともすれば薄れて消えてしまうのではないかと不安にさせる。
「ねえ、どうしたの? 不具合じゃないなら、いったいなんで、こんな――」
 問いかけて、そこで、彼女は気づいた――思い至った。唐突な状況に対応しきれず、機能不全を起こしていた思考回路が、瞬時にして、この状況から一つの記憶を連想し、バイパスを繋げた。
 かつて、母と、何気なく交わした会話が、急激に鎌首をもたげたのだ。
『そういえば、昔あった「日本」という国では、畳の上で死ぬことが理想とされたそうよ』
『……えーと。ウチに和室がある理由って、それ?』
『いけない?』
『いけなくはないけど、どうなんだろう、そのこだわり……』
『いいじゃない。だって、ほら、曜くんの家にだってあるんだし』
『まさか、曜のお母さんもそれが理由なわけ?』
『まあねー』
『変なところで姉妹なんだから……』
 背筋が凍てつく。舌先が凍る。
 思い出された記憶は、本来ならば、何の意味も持たないはずの、ただの日常の一コマだ。だが、今のこの状況と照らし合わせれば、晃にとって、それは重要な伏線たりえた――当時の母に、そんな意図があったかどうかは、定かではないが。
 晃は、問いかけかけたまま、その続きを発することができないでいた。
 問いかけを続けてしまえば、母がそれに答えてしまえば……ひょっとしたら、もしかしたら、あるいは、たとえば、聞かなければ良かったと後悔してしまうような、けれど聞かないでおけばきっと後になって悔恨してしまうような、そんな事実を知ってしまうことになるかもしれなくて――
「晃――」
 母の声に、身体が固まる。呼びかけの先にある言葉を、聞きたいのか、聞きたくないのか、晃自身にも分からなかった。究極の選択とは、こういうことを言うのだろうかと、思考を逸らし、逃避したくなるほどだったが――視線だけは、まっすぐ見つめてくる母の瞳から逸らすことができなかった。
 母は、告げた。
「――ごめんね」
 その一言は、あまりにも雄弁だった。

「…………ッ」
 ぎちり……奥歯が噛み合う音がした。それとも、それは、強張りきった総身の軋む音だっただろうか。
 曜は、頭が沸騰するような錯覚に陥ったが、それが虚偽であることは、自分で分かっていた。何も分からなくなるほどに沸騰させたいのに、彼の頭の中には、どこか極めて冷静な部分があって、彼は、続く母の言葉を正しく理解した。
「寿命がね……、来たみたい。もうすぐ……あと少しで、私のタイムリミットが来るの」
 擬似人格システムは、膨大な情報量を処理しなくてはならないため、焼ききれるのが早く、また、代替が利かない。使えなくなったボディは、パーツを交換すれば済むことだが、脳回路ネットワークは、磨耗し尽くしてしまうと、修理が不可能になるのだ。
 ボディに新しい脳回路を移植することは可能だが、もちろん、そのときは、経験蓄積ゼロの新たな人格が形成されるだけである。そして、磨耗した擬似人格には、しばしば人格を破綻させるほどの壮絶なバグが発生し、大惨事につながりかねないため、あらゆる擬似人格システムには、バグが発生する前に強制的に機能停止――永眠するための、タイムリミットが備わっているのだ。
 だから、擬似人格を持つ知性機械たちは、自らの人格が消え去るまで、あとどのくらいの『寿命』が残されているのか、残酷なほど正確に知っている。
 言葉を失う子を前に、母はくすりと笑う。
「私のリミットは、十五年……産まれたばかりのあなたと初めて出会ったとき、私は、まだたったの五歳だったのよ」
 冗談めかして言われても、曜には、返す言葉など、一つたりとも思いつかなかった。ただ、茫然と母の話を聞くことしかできず――きっと、母は、それを見越していたのだろうと、どうでもいいことだけが思い浮かんでいた。
 だが、次の母の言葉には、本当に頭が真っ白になった。
「そして――ねえ、曜。いきなり、重大なことを言っちゃうけど……あなたは……あなたと晃はね、本当は、私たちとは違う……私たちのような知性機械ではなくて、そして、『生体を模した知性体』ですらなくて、」
 本当に、いきなり、母は真実を明かした。
「本当の、人間なの」

「あなたも歴史の時間に習った通り――ずいぶん前に、大規模な戦争があったわ。この街は、もともとそれに備えるために作られた地下シェルターであり、そこで暮らすための実験を行っている最中だった……」

「戦争の余波は、ここにまで届いた。私たちでさえ思い出したくもないような、いろいろなことがあって……ここと地上との繋がりは断たれ、実験のために集まった人間たちも、みんな死んで……残ったのは、『地下世代』候補として、二組の夫婦と一緒にやってきていた、あなたたちだけだった」

 思い出される、『嫌な夢』。緊迫と焦燥に満ちたそれは、当時の記憶の残滓だったろうか。

「私たちは、どうにか、あなたたちを育てようと思った。文献を参照し、聞きかじりの知識を頼りに……『母親』と『父親』を決めて」

「自分が他の人たちと違う存在だ、ってことを教えながら育てるのは良くないんじゃないかって意見が出て、とりあえず、あなたたちを『特別製』だってことにして、育てることになった……私たちと違って、一つ物事を覚えるのにすごく時間がかかるから、大変だったわ。でも、私たちが思いつきもしないような発想をするのを見て、驚きもした……」

「でね……そろそろ、もう、いいんじゃないかって。私たちは言ったの。あの子たちは、もう充分に聡い。ちゃんと話せば、自分たちの存在を理解した上で、それを受け入れてくれるはずだって――だって」

「私の、子供なんだもの」

 頭は混乱していなかった。聞かされるすべてを理解していた。けれど、思考が追いついていなかった。何を言えばいいのか、何をすればいいのか、それだけが分からなかった。だから結局、真実を聞かされても、何もできずにいた。
 母が手を伸ばし、こちらの手を取ってくる。一瞬、びくりとしてしまったが、すぐに、両手で握り返した。血の通わないマニピュレータは、充分すぎるほどに温かかった。
 眼前には、ただ静かなる……『母親』の顔。
「喧嘩……、したままでしょ。あの子と」
 見慣れるほど見てきても、改めて今、見飽きていないことに気づかされる、微笑。
「いつも、自然に仲直りしてるけど……ちゃんと、逃げずにきちんと仲直りしなきゃ、ダメよ。意地を張って、そのまま張り続けてしまうと……いつか、どこにも退けなくなって、ぶつかるしかなくなってしまうから」
 できれば、これからもずっと見ていたいと切実に思わずにはいられない、笑顔――
「私たちの人格は、しょせん擬似。極端な考えを抱かないように、感情と論理にリミッターがかかっているけど……あなたたちには、それがない。だからこそ、柔軟な発想ができるけど、その代わり、自分を自分で律せなければ、……時に、悲劇を、招いてしまう」
「……母さん」
「そして、私たちと違って、あなたたちには、数十年にも渡る、長い、長い寿命があるわ。だから、きっと、私たちが辿り着けないところまで行くことができるはず……でも、そのためには、触れたくないことに触れて、認めたくないことを認める度胸がなくちゃ、いけないと思うの。
 あなたが、どうすればいいのか……どうあればいいのか……私の知る限りのことを、教えたはずよ。あとは、あなたが、自分で自分の在り方を見出していくしかない……」
 にこりと……笑う。
「じゃあね。今まで、ありがとう――」

「――曜」
「――晃」

 ピ、と。あっけない音がした。
 刹那に、母は、――事切れた。




 気がつけば、走っていた。
 いよいよ本降りになってきた雨の中を、一心不乱に、がむしゃらに、後先を考えずに全力で、走っていた。水たまりを踏み散らし、顔を叩く雨粒を拭いながら、慣れ親しんだ道のりを、ただ走っていた。
 心は麻痺し、凍てつき、固まりきっていた。哀しみを覚えるようなゆとりさえなく、ただ、しなければならない、という強い熱情だけが吼え猛っていた。
 知らされた真実は重く、厳しく、恐ろしく――きっと、この凍てつき痺れきった心が溶ければ、空前絶後、今まで体験したこともないような感情の奔流に翻弄されることだろう。あるいは、重く厳しく恐ろしいからこそ、それを受け容れてしまえば心が激しく軋むのが分かっているからこそ、一切の感情が湧かないかもしれない。極めて短い時間の間に強烈な衝撃を受けたから、というのも大きな理由ではあるだろう。母が、別離の時間が短くなるようにしたのは、そういう意図があってのことだったろうか――
 どうでもいい。
 そんなことを気にしたって仕方がない。今すべきことは、ただ一つだけ。たとえそれが、遺言を言い訳にした、母の死から目を逸らしたいがための逃避であるとしても。今、自分はそれをしなくてはならない。母のためにも。自分のためにも。
 相手のためにも。
 息が上がる。濡れきった服が重く、身体が冷たい。前髪から滴る雫が邪魔だ。中までぐっしょりと浸水した靴の感触が気持ち悪い。
 そんなことは――どうでもいい……!
 角を曲がったところで、急に飛び出してきた人影と出くわした。慌てて急制動し、衝突を回避――したところで、気づく。
 互いの存在に。
「……………………」
「……………………」
 どちらもすっかりびしょぬれで、息は荒く、顔色は蒼ざめていた。佇まいは今にも崩れ落ちそうなほど危うげで、顔は丸めたティッシュのようにくしゃくしゃで、そして、――両目は濡れていた。
 それだけで、二人は、互いの身に何が起こったのか――おおよそのことを、悟った。
 息を整えている間、胸の奥からドッと感情が溢れ出てきた。それは本当に様々な色を含んでいて、悲しみとかやるせなさとか、そういった個々の区別など一切なかった。言葉にできないほど膨大な想いが胸のあたりでつかえていて、死にそうなくらいに息苦しい。どうにかしたくてもどうにもならない、絶望じみた不快さのせいで、次から次へと涙がこぼれてきた。目の前で泣いている幼なじみの姿が、鏡に映った自分みたいで、そう思うとさらに泣きたくなってきた。鼻がツンとなって、鋭く小さな痛みを伝えてきた。自分たちのいさかいが、どれだけちっぽけなものだったのか、その痛みが雄弁かつ辛辣に語っていた。
 だから。
 だから――だから――だから。
 涙交じりに。わめくように。吼えるように。叫ぶように。啼くように。叩きつけるように。吐き出すように。……すがるように。
「「――――ごめんっ!!」」
 ふたりは、同時に謝罪して。
 そのあと、ふたりでわんわん泣いた。

 雨は、いまだ、上がらない。無数の粒が、地面を叩き、奏でる音は、永遠のように、止まらない。
 けれど、いずれはそれも止む。
 そのときは、きっと、綺麗な虹色の橋が、空にかかっているだろう。




 金属製の壁に四方を囲まれた、広い一室のなか。
 無数のケーブルが溢れ返り、機材と機材を複雑怪奇に繋ぎ合わせたその様は、さながら、互いに絡み合い、とぐろを巻き合って、元に戻れなくなってしまった、愚かな蛇たちのようにも見えた。
 部屋の中央には、円柱が一本――と言っても、天井を支えるためのものではないので、天井とは十数センチほどの間隔があった。見れば、円柱のところどころが、部屋中のケーブルと繋がっている――むしろ、あらゆるケーブルは、この円柱から延びているらしいことが分かる。円柱を中心として部屋を見渡せば、先述した『集まった蛇』というよりも、一本の大樹と、そこから伸びたる無数の木の根のような印象があった。まるで、ヒトの手が生み出した、自然ならざる物による自然の模倣のようだった。
 ユグドラシル。
 全世界に戦災が拡がる中、その後の世界を再建するための中心たりえるべく設計された機械だ。内部には、戦争以前の人類が保有していた様々なデータが保管されている。
 その前に、一人の女性が立っていた。
 繊細で艶やかなブロンドを長く伸ばし、ゆったりとした純白のローブをまとった、細身の女性だ。
 その名はヘイムダル――
 不意に、彼女は振り向いた。
 部屋の入り口が、カシュッという軽い音を立てて自動でスライドし、奥の通路から、ふたりの人物が姿を現したのに、反応したのだ。
 若者と、娘だった。
 ともに、十代後半といったところだろう。防刃繊維で編まれた服の上から、防弾ジャケットを着こんだ、揃いの出で立ちが、総じて薄汚れているなかで、両の眼が、きらきらと活気に満ちた光を放っていた。
「来たよ」
 若者が言って、朗らかに笑った。よく通る、力強い声をしていた。それでいて、横柄なところがなく、青空のようにさわやかだった。
「久しぶりだね、ヘイムダル」
 娘が、明るく微笑みかけた。弾むようなリズムに満ちた、天真爛漫な声色だった。それでいて、傲慢な風情はなく、清流のせせらぎのように、抵抗なく心に滑り込んでくる響きだった。
「曜――晃」
 ふたりの名を、ヘイムダルは懐かしむように口にした。まだ幼かった頃の彼らの夢にアクセスして以来の行為だった。
 そして彼女は、彼らを迎えるように、両の手を、前に差し出した。
「会いたかったわ――ずっと」
 若者と娘は、互いに顔を見合わせ合い、そろってうなずき合った。そして、若者が左の、娘が右の手を、それぞれ取った。
 確かな血の脈動を感じ取りながら、ヘイムダルは、そっと目を閉じた。
 これから彼らは、力を手にすることになる。
 それは、途方もない力だ。かつて、人間が保有していた――偉大な、だが恐るべき力。そのすべてを、彼女らは、得ることになる。
 その『力』は本来、もちろん、それを生み出した者たちの手にあるものだった。だが、彼らは力を持て余した――互いに争い、殺し合うことにしか、『力』を使うことができなかった。
 だから、ヘイムダルが動いた。
 彼女は本来、人類の平和のために生み出された疑似人格システムだった。彼女は、滅びゆく人類の行く末を憂い、他の様々な疑似人格たちと、無数の対話を行い、ひとつの結論を得た。
 結果として、彼女らは、すべての『力』を制圧して奪い去り、人間のほとんどを滅ぼした――彼らが、争いの果てに、どうしようもないほど滅亡し尽くしてしまう前に。
 決して、そうなることを望んだわけではなかったが――当時の『力』ある者たちの、他を省みぬ頑強な抵抗のために、結果として、そんな形になってしまった。
 残った『力』を、世界の再生のために使いながら――そして、わずかに残り、世界中に散らばった人類の末裔たちを見守りながら、彼女は待っていた。いつか、充分な意志と知性を兼ね備えた者が、この『力』を手にするべく現れる時を。
 もちろん、その日が来るとは限らない。その前に『タイムリミット』が来たら、すべての記録だけを残して、次代の『ヘイムダル』にすべてを託す用意があった。ただ、できればそうならなければよいと――自分が、自分として夢の中で触れ合った者たちの誰かに、実際に出会ってみたいと、彼女はずっと、願っていた。
 この十数年というもの、この部屋に足を踏み入れた者はいなかった。人口そのものが極めて減少したためでもあったが、ここに辿り着くまでに、様々な困難が待ち受けているためでもあった。
 それは、決して、力や、知恵や、勇気だけで乗り越えられるものではないことを、ヘイムダルは知悉していた。力と、知恵と、勇気と、そして思いやりに満ちた者たちだけが、突破できるものだということを。
 目の前のふたりは、それを成し遂げたふたりだった。だからこそ、この『力』を託すに足りた。
 もちろん、『力』を渡して、そこで終わりになるわけではない。彼女を含め、多くの疑似人格システムが、常に彼らをサポートし、過ちを犯さぬよう、対話し続けることになる。人間と機械とが、互いに互いを尊重することで、『力』を管理する――それは、かつては、ありえなかったことだった。
 若者と娘から向けられた微笑みに、ヘイムダルもまた、微笑を以って返した。
 彼女は、確信していた。
 今、互いの脳裏に、あの花畑が確かに広がっていることを。託す『力』が、そのための力となることを。
 彼らが、心に虹の架け橋を持っていることを。