Necromantica


“ソウル・ブレイカー”



Preplay.


  GM   じゃあ、ネクロマンティカのセッションを始めます!
  一同   おー!



 数人が同じテーブルに着き、紙や筆記具やトランプや飲み物を広げているという、この光景。
 実は、これからゲームを始めるところなのです。

 その名は、『テーブルトーク・ロールプレイング・ゲーム』。  遊び方が書かれたルールブックを元に、「ゲームマスター(GM)」が作ったシナリオを、「プレイヤー」が作った「プレイヤー・キャラクター(PC)」で遊ぶ――
 という、たいへん変わったゲームです。

 そしてこれは、「リプレイ」と呼ばれる新感覚文芸媒体。
 テーブルトークRPGのプレイ風景を録音し、さらに編集して作成された読み物です。

 テーブルトークRPGの遊び方は、実際に遊んで見ないとなかなかよくわからないものですが、リプレイは、このゲームの雰囲気を、おおよそ察する手助けとなるのです。


 ちなみに、今回ここで遊んでいる『ネクロマンティカ』というゲームは、一部の有志が勝手に盛り上がって作っちゃったオリジナルであり、一切販売されていないものなので、ご注意ください。



  GM   さて、『ネクロマンティカ』は、古代ギリシャ・ローマ風の世界で、ゾンビーやスケルトンやゴーストといった死霊たち、いわゆるアンデッドを主人公として遊ぶゲームです。
 世界設定としては、まず、シオルという神がいて、世界を創った。
 ところが、世界ができたあとになって、『やっべ、死んだ奴の魂がどうなるか決めてなかったわ』という仕様ミス。  
  プレイヤーA   うっかりさん。……仕様ミスとか言うな!(笑)
  GM   仕方がないので、シオルは自らが冥府となり、死者の魂を受け入れることにしました。
 なので、死んだ者の魂は、冥府であるシオルに抱かれ、黒き冥府の炎“インフェルノ”によって記憶を浄化されて、また世界へと送り出される。いわゆる輪廻転生だ。
  プレイヤーA   神様忙しいな。
 GM   まあ、実際には、シオルはシステムそのものだから、明確な自我があるかどうかは不明なんだけどね。
 ところが、死んでなお、現世に未練を残しすぎた者の魂は、『このまま死んでたまるかぁ!』と、身を焦がすインフェルノを引きちぎってでも現世に戻ろうとする。それらがアンデッドだ。死体に魂が宿って屍人ゾンビーs化したり、骨に魂が宿って活ける骸骨スケルトン化したり、魂のまま幽霊ゴーストになったりする。
  プレイヤーC   物質に宿るゴーレムとか、いろいろいるわけですね。
  GM   で、そうしたアンデッドたちは、インフェルノの炎にさらされてしまったので、一部の記憶を忘却していることがあります。
 でも、その代わり、引きちぎってきたインフェルノを動力源として活動し、さらには自在に操ることもできる。
  プレイヤーA   インフェルノを使うと、どんなことができるんですか?
  GM   インフェルノを物質化して武器にしたり、あるいは炎として炸裂させたり、ゲーム的には、キャラクターの個性を表す特殊能力としてデータ化されています。
 PCはこうしたアンデッド、あるいはインフェルノを扱える人間となって、自身の未練を晴らすために活動するわけですね。
  プレイヤーA   未練を晴らすと、どうなるんです?
  GM   成仏します。(一同笑)
 基本的には、成仏――冥府への“昇華”を目指して、様々な悲劇を味わいながら乗り越えていくのが醍醐味です。
 なお、舞台は、“パクス”と呼ばれる都市国家があちこちに存在する、古代ギリシャ・ローマ風の世界。人々は冥府の神シオルを信仰し、アンデッドという不浄の存在にはならないよう、清く正しい暮らしを目指している。
 さて、そんな感じで、そろそろ今回のシナリオの説明に移ろうか。



仲むつまじく暮らす二人――
彼らを引き裂こうとする影が、あった。

姉をかばって死んだ魂は、未練に引きずられて舞い戻り、
彼女を殺した者もまた、未練を抱えて現世をさまよう。

未練を晴らすためには、街に現れる異変を追わねばならぬだろう。
たとえ、その行いが、どれほどの悲劇をはらんでいたとしても――。

“ソウル・ブレイカー”

失える記憶の果てに、どんな願いがあっただろう――?



  GM   というわけで、都市を舞台にしたシナリオですね。
 では、続いて、君たちにプレイヤー・キャラクターを作ってもらうわけだが……その前に、『こんな設定を取り入れてやってね』というお願いとして、ハンドアウトを読み上げさせてもらおう。



PC1用ハンドアウト

因縁記憶:【親愛】 対象:【エレン】

生前の記憶
 幼くして両親を失ったあなたは、姉のエレンとともに暮らしていた。
 エレンにはフレドという恋人がいたが、彼女を見染めた豪商チェットの存在が、暗い影を落としていた……。

死の記憶
 何がどうなったのか、よく覚えていない。
 ただ確かなのは、姉が誰かに襲われ、それをかばったあなたが死んだという事実だった。

現在
 死後、アンデッドと化したあなたは、あてもなく街をさまよっていた。
 そこであなたは、同じくアンデッドと化したエレンに襲われている少女を助ける。
 辛うじて生きているこの少女を助けなければならない。そして、確かめなければならない――姉に、いったい何があったのか。

未練:姉の身に何が起こったのかを確かめる



  プレイヤーA   おねーちゃーん!
  GM   このハンドアウトは、もろにシナリオに絡んでくる設定となっております。では、続いて第二弾。



PC2用ハンドアウト

因縁記憶:【半仮面の男】 対象:【(任意)】

生前の記憶
 プレイヤーが任意に決定してください。

死の記憶
 あなたは、半仮面の男の陰謀によって命を落とした。
 詳細は、プレイヤーが任意に決定してください。(一同笑)

現在
 半仮面の男のせいで死に、アンデッドと化したあなたは、やがて、死霊の酒場〈ロクス・ソルス〉へたどり着いた。
「我々の任務に協力し、摂理を乱すラルヴァを駆逐するのなら、未練が消えるまでこの世に留まる場を提供しよう」
 そう語る酒場の女主人――死神たるグリム・リーパーの〈ソロレス〉に、あなたは協力する立場となった。
 今日も、〈ロクス・ソルス〉にアンデッドがやってくる――今日の客は、傷ついた少女を抱えていた。

未練:半仮面の男の正体を突き止める



  GM   PC1は死に方が決まっていたけど、PC2は、半仮面の男に因縁があること以外は、自由に設定していい。では最後。



PC3用ハンドアウト

因縁記憶:【敵意】 対象:【ラケルトゥス】

生前の記憶
 プレイヤーが任意に決定してください。

死の記憶
 あなたは、ラケルトゥスが関わった事件のために命を落とした。
 詳細は、プレイヤーが任意に決定してください。

現在
 ラケルトゥスの消息を追うあなたは、ある街に辿り着いた。
 今までの情報によれば、ラケルトゥスはこちらに向かったらしい。
 本人が見つけられずとも、ラケルトゥスの“弟子”を倒せば、さらなる手がかりが手に入るだろう。
 そのためには、アンデッド絡みの事件に関わるしかない。あなたは、〈ロクス・ソルス〉を訪れ、じっとそのときを待っていた。

未練:ラケルトゥスを倒す



  GM   ラケルトゥスというのは、世界各地に出現し、生者でありながらインフェルノを操る死霊術ネクロマンシーの秘儀を、次々に伝承していくという困ったお兄さんだ。特徴は死なないこと。
  プレイヤーC   未練が晴らせないんですが(笑)。
  GM   大丈夫、ハンドアウトに書かれている未練はあくまで指針であって、セッション中に変えてもいいから(笑)。
 では、ハンドアウトが出そろったところで、誰がどのハンドアウトを使ってPCを作るか、決めてもらおうか。
  プレイヤーA   ここは頑張ってお姉ちゃんに武力介入します。
  プレイヤーC   ここはPC3とかやりましょうかねぇ。
  プレイヤーB   じゃあ俺がPC2かな? まあ、問題はない。



 と、ハンドアウトを選択し、さらにアンデッドとしてのタイプを選んでいくプレイヤー一同。
 その後は、ルールに従って、着々とキャラクターのデータを作りつつ、設定を深めていきます。



  GM   データはだいたいできたみたいだね。
 では、そろそろ【根源記憶】を決めよう。
 これは文字通り、キャラクターの根源的な記憶を表すもので、カードを引いて決めてもいいし、自分で選んでもいい。
  プレイヤーA   では、とりあえず引いてみます。
 (山札から、すちゃっ、とカードを引いて)……対象は【人間】、記憶因子は【切なさ】。
 人間ってなんて切ないんだー! お姉ちゃんもいつか死ぬのかなぁ。とか思ってたらボクが死んだ(笑)。
  プレイヤーB  (すちゃっ)対象は【生命】、記憶因子は【享楽】。
 命って素晴らしい!
  プレイヤーA    そこ、タイプに死神グリム・リーパー選んでなかったっけ?
  GM  『命って面白!』(一同笑)
  プレイヤーA   死神キタコレ(笑)。
  プレイヤーB   ちょっとソレはヤバいんで(笑)。
  プレイヤーC   こっちは……(すちゃっ)対象は【他者】、記憶因子は【諦め】ですね。
 ふっ、しょせんお前らなんて。
  プレイヤーA   他人のこと信じてねーぞこいつ!(笑)
  GM   ついでに、死因がハンドアウトで設定されてないPC2とPC3は、ここで死に様をカードで決めてみるかい?
  プレイヤーB   そうですね。(すちゃっ)死因は……「事故死」。
 あれ? 半仮面の男は?
  プレイヤーA   半仮面の男が事故を起こしたんだよ!
  プレイヤーB   続いて、死に場所は……(すちゃっ)「洞窟」。
 洞窟で事故死? それは洞窟に入る奴が悪いと思います。(一同笑)
  GM   確かに事故は多いだろうけど!(笑)
  プレイヤーB   ちょっと、死に場所だけ変えてみますね……
 (すちゃっ)ん? 「インフェルヌス」? どこ?
  GM   死者の怨念が集まって発生する、アンデッドの出現しやすい特殊な空間ですね。
  プレイヤーB   洞窟で事故死……インフェルヌスで事故死……。
 インフェルヌスとか、入っちゃってる時点で事故だよ!(笑)
  プレイヤーC   では私も。(すちゃっ)死因は「病死」、死に場所は「牢屋」。
  プレイヤーB   ラケルトゥスさんによって政治犯として投獄されちゃった感じ?



そんなこんなで数十分後。


  GM   では、PCができたみたいなので、キャラ紹介をしてもらおうか。
  プレイヤーA   はい、ではPC1から。
 キャラクターの名前はオルトリオ。とある街で、お姉ちゃんのエレンと一緒に暮らしていた、靴職人見習いの、年齢15歳くらいの男の子です。
 幼いころに両親を亡くしたのでお姉ちゃんっ子だったのですが、がんばって手に職をつけようと、地元の親方のもとで修業をしてる毎日です。
 で、フレドって恋人ができたの、最近の話ですか?
  GM   いや、4〜5年前。
  オルトリオ   ではですね、お姉ちゃんはボクが守るんだ、とか思っていたんですけど、性格も身分もそこそこの、しっかり働いて姉を困らせないような男がいるので、靴職人として親方に認められたら、自立しようかなあ、とか考えてます。
  GM   ほうほう。
  オルトリオ   そんな感じの、お姉ちゃん思いで――かといってお姉ちゃんべったりというわけでもない、年頃の男の子です。
 ゲーム的なことを言うと、このあとゾンビーになります(笑)。



 ゾンビーは、死者の魂が己の肉体に宿り、屍を衝き動かした存在です。
 生前の肉体的限界に縛られないため、常人に比べて高い体力と耐久性を持ちます。



  オルトリオ   インフェルノで〈ファランクス〉っていう槍を作り出して、突撃しながら攻撃できたりします。そんな感じでよろしゅう。
  GM   では、続いてPC2。
  プレイヤーB   はい。名前はティーエン、タイプはグリム・リーパーです。



 グリム・リーパーは、いわゆる死神です。
 といっても、人間の魂を刈り取る存在ではありません。
 死後、冥府シオルと契約することで、過去の記憶と未来への転生を失うことで、輪廻の摂理から外れたアンデッドを駆逐する存在となった者たちです。



  ティーエン   元は普通の村落で暮らしていた、がたいのいい普通の男だったんですが――
 そこに半仮面の男がやってきたかと思うと、村があるなんてことは関係もなく、インフェルヌスが出現してしまったんです。
  オルトリオ   半仮面の男、悪い奴だな。
  ティーエン   これで半仮面の男がいい奴という設定があったら大爆笑なんですが(笑)。
  GM   大丈夫、悪い奴でOKです(笑)。
  ティーエン   そのインフェルヌスで命を落としたのですが、グリム・リーパーにならないかと冥府に誘われ、死神になることを選びました。
 見た目は、がっしりとした死神のおっさんです。不気味というより、普通に殺されそうな感じ(笑)。
 特徴タレントとして、【復讐者】【守護者】【紳士的】を持っています。自分と同じような、理不尽に苦しむ人をアンデッドから守りたい、という感じです。
 キャラクターデータ的には、死神装備であるロンパイアという鎌で戦う前衛です。命中率をとことん上げて、相手の首をかき切るのが狙いです。
  GM   なるほど、スタンダードにテクニカルだ。
  プレイヤーC   では、最後は私ですね。
 名前はイスルナ、タイプはファントムで、女性です。  アンデッドと戦うクレマトリア帝国の火炎技師で、祖霊ウルトの信奉者です。



 ファントムは、インフェルノで肉体を構築して現世をさまようアンデッドです。
 いわば肉のあるゴーストで、外見上は人間とほぼ変わりません。
 ですが、インフェルノで肉体を保つことは記憶に大きな負荷をかけるため、ファントムは20〜30年分の記憶しか保持できないという欠点を持ちます。

 ちなみに「祖霊レムレス」とは、英雄や聖人が、死後、人々の間で神格視され、崇拝の対象となった存在です。
 イスルナの信奉する「ウルト」は、特に、「怨恨を持ち込むことなく、純粋な意思を以て闘争にあたれ」と導く祖霊です。



  イスルナ   怨恨を持ち込むことなく純粋に戦いに臨もうとしていますが、タレントで【裏切りの味】を獲得しているので、いかに裏切りが甘美なのかも知っています。
  GM   それは裏切った経験がある方ってこと?(笑)
  イスルナ   (しれっと)はい、残念なことに。
 クレマトリア帝国の火炎技師として、火砲フラミガートルなどの制作に携わっていたのですが、ちょっと理不尽な上官を殺してしまい、牢屋にブチこまれて病死してしまいました。
  ティーエン   ラケ兄どこ?(笑)
  GM   その上官がラケルトゥスからネクロマンシーを授かった“弟子”だったとかじゃない?
  イスルナ   そうですね。その後、アンデッドになってからは、やはり祖霊ウルトの教えに従って、怨恨を持たずに戦うべきだったのではないか、と考えながら現世をさまよい歩き、戦うべき敵としてラケルトゥスを追っています。
  GM   なるほど。
  イスルナ   データ的には、フラミガートル――まあ鉄砲だとか、火炎放射器である「クレマトリアの火」などを、インフェルノで威力を強化してブッ放すキャラです。よろしいかな?
  GM   了解した。では、このメンツでセッションを始めましょう。
  一同   はーい。



Memorial Scene.01 『平穏の裂ける音ピース・ブレイカー


  GM   ではまず、生前の記憶と死に際の記憶を演出する「メモリアル・フェイズ」から始めましょう。
 最初はオルトリオのシーン。まずは、君の生前の、姉との平穏な風景を演出しようと思うけど……どんな感じがいい?
  オルトリオ   じゃあ、夕食時で!
  GM   了解。ではある日の夕方、エレンが台所で料理をしている。
  オルトリオ   居間で待ちながら、お姉ちゃん、大丈夫ー? と声をかけてる。
 お姉ちゃんはそそっかしいからなぁ。
  GM   では、『大丈夫よー』と答えたエレンが、重い箱を持とうとして、思わずよろける。で、そばにいた恋人の青年――フレドが、とっさにそれを支えている。
  オルトリオ   じゃあ、一瞬、駆け寄ろうとしたけど、それを見て止まった。
 4年前までは、あれは僕の仕事だったんだけどなあ、と苦笑いしながら、微笑ましい二人を見てるよ。
  GM   では、皿を運んできたフレドが、『オルトリオ、向こうにまだお皿があるから、取ってきてくれないか?』とにこやかに告げてくる。
  オルトリオ   ああ、フレドさんは僕を気遣ってくれたんだ、やっぱりいい人だなあ、とか思いつつ、はい、と答えて皿を取りに行くよ。
  GM   では、そんな感じで、三人そろって夕食です。
 座るか、長椅子に寝そべるかして、ナイフとスプーンと手づかみを駆使して食べる感じかな。エレンとフレドは、あまり寝そべるのは好まない。
  オルトリオ   座ったまま、今日、親方にこんなことを言われたんだよ、みたいな話をしながら食事をしてます。
  GM  『それは大変ね』とエレン。
『あ、ところで、オルトリオ。あなた、どんな色が好き?』
  オルトリオ   ? えーと……お姉ちゃんの髪の色は?
  GM   シナリオでは特に決めてないな。君の自由でいいよ。
  オルトリオ   じゃあ、淡い栗色――亜麻色で。好きな色も、亜麻色と答えます。
  GM  『ふぅん、そっか。ふーん……、なるほどね』
  オルトリオ   ? それがどうかしたの?
  GM  『ううん、訊いてみただけ。ね、フレドさん?』
『ん、ああ、そうだね、エレン』
 と、二人はにこやかに言う。
  オルトリオ   なんだろう? まあ、お姉ちゃんが訊いてくることだから、悪いことじゃないんだろうけど。
  GM  『あとどのくらいで親方さんに認めてもらえるんだい?』とフレドに訊かれたり、エレンが『フレドさんこそ、今度の絵画コンクールはどうなの?』と言ったり。
 いつも通りの会話をしているんだけど、なんとなくフレドの表情が暗い。
  オルトリオ   どうしたんですか、フレドさん?
  GM  『ああ――、チェットのことでね』と不安げに。
 ハンドアウトにも書いてあるとおり、チェットは街でも知られた豪商で、エレンを見染めてプロポーズを繰り返しているおっさんだ。
『やっぱり、どうもエレンを諦めてくれそうにはないな』
 エレンも困った感じ。
  オルトリオ   ボクは、あんな男を「お兄さん」だなんて呼びたくありません。フレドさんは、もっと強気に出てもいいんじゃないですか?
  GM  『弱気でいるつもりはないんだけど……、相手がどう出てくるかと思うとね』
  オルトリオ   やっぱり、みんなで仲良く暮らせるのが一番なんだけどな……。
  GM  『そうだね……』とフレドがしみじみうなずいたところで、ちょっと場面が変わります。
 続いては、死の記憶――ある日の昼、君が仕事道具を忘れて、家に取りに戻ったときのことだ。
  オルトリオ   いつまでもこんなんじゃ、親方にどやされちゃうよ、とか思いながら、家の中に入っていく感じですね。
 ごめん姉さん、ボクの仕事道具、どこにあるか――
  GM   居間に到着した君が見たのは、立ち尽くす姉と、その向かいに立つ黒い人影。それが誰なのか、ということは、君の記憶では思い出せない。
 そして、その人影は、手に黒い炎を生み出している。
  オルトリオ   ね、姉さん! と、思わず間に割って入ります。
  GM   すると、男が反射的に君に炎を放ち、君は黒い炎で焼き尽くされる。
『オルトリオっ!?』 背後で響く、姉の悲痛な悲鳴――。
  オルトリオ   炎に焼かれて、意識が朦朧としていく中……、立ちはだかるように、お姉ちゃんをかばっています。
  GM   君の身体は焼けただれていき、意識が削られていく。
  オルトリオ   お姉ちゃん、大丈夫……? とだけ言って、ダウン。
  GM  『オルトリオ? ……オルトリオっ!!』
 姉の叫びがこだましつつ、意識が途切れ――君は、死んだ。



 少年は、死んだ。疑いようもなく。完膚なきまでに。――死んだ。
 引き裂かれた平穏――唐突なる死。
 彼はまだ、知らない。
 平穏への愛しさが、訪れた死の唐突さが、自らの魂に、たぎるような未練を生み出したことを。
 そのために、記憶を焼かれることを拒み、現世へと舞い戻る未来を。
 その先に待つ、死にすら勝る苦悩の影を。




Memorial Scene.02 『死神舞踏ダンシング・ウィズ・ザ・デス


  GM   次は、ティーエンのメモリアル・シーンなんだけど……。
  ティーエン   グリム・リーパーだと過去の記憶を失ってるから、生前の記憶とかは出せない……ですかね?
  GM   演出するだけして、『でもPCはだいたい忘れてます』ということにするのもアリだけどね。特に生前の姿を演出したいわけじゃないなら、今回は、グリム・リーパーになったところを演出するのはどうかな?
  ティーエン   そうですね、それで行きましょう。
  GM   では――、死した君の魂は、冥府にたゆたい、黒い炎に包まれている。
 炎が燃えるたび、君の記憶が浄化されていく――目の前で、書物のページがめくられるようにして、平穏な村の暮らしが現れては焼かれ、現れては焼かれ……
  ティーエン   それは、大事な記憶であったり、どうでもいい記憶であったり……やがて、最期の記憶が見えるわけですね。
  GM   半仮面の男とともに、村に出現したインフェルヌス――
 冥気が満ち、アンデッドがあふれ、村人たちを引き裂いていく。その光景が、君の目の前で繰り広げられる。
  ティーエン   その中で、村人を助けようとしながらも、何もできずにいる自分を眺めていたり……
  GM   さらに、村の中央でそんな君を見つめて高笑いを上げる、顔の上半分を仮面で隠した男の姿があったり。
 そんな記憶も、燃え尽きようとしている――。
  ティーエン   顔を憎々しげに歪めながら、目の前の記憶に手を伸ばします。
  GM  『やめておけ』
 声とともに、君の手が白い手につかまれる。
 現れたのは、黒いフードつきローブに身を包んだ美しい女性だ。
  ティーエン   ――あなたは?
  GM  『死神だ……』
  ティーエン   死神――。では……、私はやはり、死んだのですね。
  GM  『そうだ。おまえの魂はインフェルノの炎に焼かれ、記憶を浄化されようとしている。そうすれば、おまえはすべての記憶を失って、転生を果たすだろう。
 だが、未練に手を伸ばそうとするのなら――お前は現世をさまよう悪霊となるやもしれぬ』
  ティーエン   あんな感じにですか……? と、記憶を指さします。それは困りますね……。
  GM  『ならば、インフェルノに心を委ね、次なる未来に思いを馳せるがいい……』
  ティーエン   しかし――、どうすればよいのです? この……苦しさ、悲しさは。
 話が違うじゃありませんか。いま、私はすべて忘れようとしていると言ったでしょう。そんなことはないです――いまこのときも、私は、怒り、悲しみ、そういったものに焦がれています。忘れようとしても、忘れられないではないですか。
  GM  『ならばお前は、未練のままに死霊――ラルヴァとなって現世に戻り、やがては人を襲うかもしれない』
  ティーエン   それは困りますね……、と、もう一度、かみしめるように。
  GM  『ならば、道は二つある。一つは、魂そのものを今ここで私に引き裂かれる道。
 もう一つは、過去を失い、未来を捧げて、ただラルヴァと戦うだけの存在となる道――』
  ティーエン   ……後者の結果が、あなたというわけですか。それは哀しそうだ――私はそちらを選びたいと思います。
  GM  『ならば私は、お前を歓迎しよう』
 すると、君の身体をまとっていた黒い炎が、黒いフードつきローブとなって全身を覆い、手には長大な鎌刀、ロンパイアが握られる。
  ティーエン   これが、死神の衣装と武器、というわけですか?
  GM  『『『『『そうだ』』』』』
 彼女の声が、突然、重なって響く。気づけば、君の周囲には、同じ顔をした女性たちがずらり、並んでいる。
  ティーエン   さすがにそれには驚く(笑)。今まで割と平坦な感じだったのが、驚いた顔つきになります。
  GM  『ついてこい。まずは研修期間だ――私の酒場で働かせてやろう』
  ティーエン   では――、よろしくお願いします。……あなたたちのお名前は?
  GM   問いに、彼女らは、声をそろえて答える――
『〈姉妹ソロレス〉』と。



 未来を放棄し、過去の記憶を切り捨てて――そこにいるのは、もはや、人間であった頃の『彼』とは非なる誰か。
 ただ――死神となり、死霊を駆逐するさだめに身を投じたいと願うに至ったのは、強すぎる未練、烈しすぎる記憶あってのこと。
 死神『彼』の死神『彼』たる根源には、常に、人間『彼』の記憶が眠っている。
 失ってなお忘れがたい記憶が、彼を苛み続けるだろう――
 おそらくは、その魂の朽ちるまで。




Memorial Scene.03 『死を忘却せし者ネクロノゥト


  GM   最後はイスルナのシーンです。生前の記憶と死の記憶だけど、どんな演出をしたい? もう牢屋の中にいるところから始める?
  イスルナ   そうですね、そうしましょう。ネクロマンシーに手を染めた上官を殺し、投獄された私のところに、別の上官がやってきて、『お前はよくやってくれたが、このことが外部に漏れると帝国の威信が崩れるから、このまま死んでくれ』と。
  GM   残念だが、と言って、その上官が去っていく。
  イスルナ   私だって、望んでやったこと――と目を閉じます。
 祖霊ウルトは、怨恨を持ち込むことなく闘争に臨めと言う。しかし、人が恨みを持つことなく戦うことなどあるのだろうか? と考え続けています。
  GM   あるいは、それを口に出していたのかもしれない。不意に、
『――知りたいのか?』
 鉄格子の向こう側から、落ち着いた青年の声が響く。
  イスルナ   そちらの方を向く。
  GM   黒い髪をした青年が、鉄格子の前に立ち、澄みきった瞳で君を見つめる。
  イスルナ   ……君は?
  GM  『我が名は、ラケルトゥス。死を忘却せし者――』
 君の上官にネクロマンシーを授けた男だ。
  イスルナ   今回の黒幕ということか。なぜ、私のところへ来た?
  GM  『未練の匂いがした』
 言いながら、その身が陽炎のようにかすんだかと思うと、次の瞬間には鉄格子の内側にいる。インフェルノを駆使した特殊な技法による効果だ。
  イスルナ   未練……か。確かにあるだろうな。と言ったところで、咳きこむ。
 病気――喀血。
  GM  『そなたはすでに、病魔に蝕まれている。長くは保たぬだろう。それでもなお、その疑問を知りたいと思うのであれば……、知識を与えるに、やぶさかではない』
  イスルナ   君は知っているというのか? 祖霊ウルトが、なぜあのような言葉を残したのか。
  GM  『私は知らぬ。だが、この世に留まり続けていれば、いずれ知る機会もあるだろう……』
  イスルナ   ……アンデッドになれというのか。
  GM  『あるいは、死霊秘術を修めることで、寿命を延ばすかだ』
  イスルナ   なるほど。それもまた、道の一つかもしれぬ。だが、君に手伝ってもらおうとは思わない。
  オルトリオ   ああ、【根源記憶】が【他者】への【諦観】だもんな。
  イスルナ   ウルトの言葉の答えだけを、私は求める……。
  GM   ラケルトゥスは静かにうなずき、
『ならば、そなたが次なる生で、その答えを得られんことを――』
 言い残し、再び陽炎化して、牢屋から出て行く。
  イスルナ   黙って見送る。奴が戦うとしたら、どんな感じだろうかな……。しまった、アレは、面白いかもしれない……げほげほ。ばた。
  GM   し、死んだー!(一同笑)



 孤独の中で、彼女は死んだ。
 他者への拒絶と、他者よりの拒絶の中で、彼女は死んだ。
 その身に去来するものは、ただ、無限に続く疑問の念。
 やがて彼女は気づくだろう――死してなお、問いかけを続ける自分の姿に。
 時経るとともに記憶を失い続け、やがては、問いが何だったかすら忘れてしまいかねない――儚い幻ファントム
 そんな彼女が答えに辿り着くことなど、あるのだろうか。



  GM   【生前の記憶】から【死の記憶】までシームレスに行っちゃった感じだけど、これでOK?
  イスルナ   はい、これで大丈夫です。
  GM   了解した。それで問題なければ、これで全員の死の記憶までが演出されたことになるかな。
 では、次はいよいよ、シナリオ本編への導入と行こう。
  一同   はーい。



 次回へ続く